「悲しい言葉」



「悲しい言葉」


 
 
 私には、ある生徒さんがつぶやいた
忘れられない一言があります。



 ある日、私は講義のあといつものように
生徒さんと飲み会に行きました。
1次会は15人ぐらいだったでしょうか。
 飲み会は和気藹々とした雰囲気で、
楽しく終わりました。そして、生徒さんの中には
まだまだ話したりない方もいたので、
次は喫茶店に行くことにしました。



 このとき、喫茶店に行こうとした生徒さんは
8人ぐらだったと思います。
 しかし、喫茶店につくと休日ということもあり、
席は6人ぐらいしか、あいていません。
このままお店に入ると2人ぐらいは別の席になりそうでした。




 このとき、その様子を見た生徒さんのうち2人が
「混んでいそうなので、帰ります。」
とにこやかに笑い、先に帰って行きました。
それはごく自然な流れでした。




残ったメンバーは喫茶店の中に入り、お茶を飲みながら
楽しく会話をし始めました。私は近くにいた生徒さんと
3人ぐらいでしばらく話し込んでいました。
 3人での会話は三十分ぐらい続きました。
そしてある時間、私には聞き手でも話し手でもない
会話が訪れました。
 講義の疲れもあり、私は会話に参加するのをやめ、
ゆったりとお茶を飲むことにしました。



 喫茶店はとても混雑していました。
周りの声はよく聞こえません。
私は少しぼうっとしながら、
なんとなく生徒さん同士の会話を
聞いていました。



 このとき、私にとって生涯忘れることが
できない言葉を聴くことになったのです。
それは少し離れた席にいたある生徒さんの
独り言でした。



「僕のせいであの2人は帰ってしまった・・・」




 それは聞き取れるかどうか解らないぐらい、小さな声でした。
しかし彼は確かにそう言ったのです。




 私はこの言葉を聴いた瞬間、
なんて悲しいことを・・・と、
心が押しつぶされそうになりました。
 どう考えてもその2人の生徒さんは、
そのつぶやいた生徒さんのせいで
帰ったのではありません。
 しかしその生徒さんは
自分のせいだとつぶやいたのです。




 この言葉にはその生徒さんが歩んできた
つらい経験が集約されていたのだと思います。
その方はおとなしい性格で、自分から積極的に
話をするのが苦手な生徒さんでした。
また私には個人的につらい経験をしたことを
打ち明けてくれたこともありました。



 その言葉には人から避けられ、
つらい思いをしてきた経験がすべて込められていました。
 その生徒さんにとっては本当に、
「自分のせいで帰ってしまった。」
 と思ったのでしょう。
私の心の中にはその言葉がいつまでも残りました。
それはあまりにも悲しすぎる言葉でした。



 しかし、しっかりしなければならなかった。
その生徒さんは自分を変えようと思って
講座に来てくださった。
 そして、今目の前に私が勉強したこと、
経験したことを求めてきてくれている。
いくつもの講座がある中で私を選んでくれた。
私自身が人間関係の悩んできたことに共感してくれた。




 あまりにも悲しすぎる一言。
どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。 
もっと学んで、そんな悲しい言葉を無くしたい。
より一層強く誓うことになりました。





 その言葉は、講師として成長する上で
本当に重いものとなりました。
 

 


 かなり前の話だったのですが、
私にとって、とても重要な意味を持つ言葉なので
綴らせていただきました。







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