「木と風」

「木と風」




木は動物と違い、動かない。
意志を持って鳴くこともない。
果たして彼らは何を目的として
生きているのだろうかと思う。



彼らの中は幸福で満たされているのか、
もはや悟りの境地に達しているのか。
僕は彼らと話す術がないのだ。
だから想像するしかない。



そんな木も、風が吹くと、
途端に右に左に動いて
さわさわと話を始める。



僕は風で吹かれる木と
コミュニケーション
するのが好きだ。




ベンチに座ってその音を聴いていると、
いつしか木と話をしている気がしてくる。




残念ながら僕は、彼らの言語を理解することは
できない。彼らの言葉が解らないので、
僕は彼らがなぜ生きているのか、
言葉の上で理解することはできない。




だけど彼らはその右に左に動く姿と、
さわさわという非言語部分で、
ゆったりと僕に語りかけてくる。
僕は彼らの言葉はわからないけど、
非言語部分は感覚的に
理解したような気がしてくる。




ちょうど言葉を話さない
赤ん坊の感情を理解する感覚である。
木は無垢の赤ん坊よりも、ずっと思慮深く、
僕に言葉を使わずに語りかける。




やがてさわさわと言う彼ら独自の
さわさわという言葉と、
右に左に揺れ動くその姿が
僕の中に取り込まれる。




そしてその取り込まれたその言葉やその姿は
とても心地のよいものである。
僕は、言葉にはできないけれど、
彼らがなぜ生きているのか
なんだか感覚的には解ったような気がする。







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