「あんざいさん」

「あんざいさん」

　
　27歳ぐらいの頃、ある小料理屋によく出入りしていました。
この小料理屋は池袋の西口にあり、60歳ぐらいの夫婦が切り盛りしていました。
近くに、パチンコ屋、雀荘、キャバクラ、風俗がある関係で
普通の人はほとんどいませんでした。

　常連さんはフィリピンパブの店長、あやしいDVD屋の経営者
風俗の経営者、スナックのママ、麻雀の経営者、あとは会社員がちらほら・・・
いつ行っても同じような顔ぶれです。一見さんは皆無でした。
平均年齢も高く60歳ぐらいだったと思います。
若くても40代前半の方でした。

　私は出会ったことがあるかたなら分かると思いますが
どこにでもいそうな、なんの変哲も無いキャラの薄い男です。
年齢的にも浮いていましたが、キャラの薄さからも
完全にその場所から浮いていました。

　しかし、その小料理屋は人間模様がおもしろく、
若造でも会話に入れてくれて話ができるのです。
独り暮らしでしたし、彼女がずっといなかったのも影響していたと思いますが
50回ぐらいは夕飯を食べに行ったと思います。

　本当に個性的な方ばかりでした。
なかでもあんざいさん（仮名）は強烈でした。
昔シャブをやっていたらしく、呂律が回りません。
服装は、いわゆるヤクザファッションで、
ヒョウが描かれたスポーツジャージを着ているような人でした。
年齢はおそらく65歳ぐらいだと思います。

　私はあんざいさんにどういうわけだか好かれてしまいました。
マンションまで送ってくださったり、いらなくなった洋服を頂いたりしました。
なぜか漬物石をマンションに置かれたのですが
あれはなんだったのかいまだに分かりません。

　あんざいさんと知り合って話していると
いろいろと謎が出てきました。
特に興味があったはあんざいさんがどうやって
生計を立てているのかでした。
あんざいさんはプレジデントと言うでっかい車を乗り回し、
いつも怪しげな電話をしています。

　あんざいさんは刑務所に3回ほど入っていたこともある猛者です。
見た目や話の内容からどう考えてもまともな
商売をしているはずがありません。

　　あんざいさんは小料理屋にたまに包帯を巻いて来ていました。
しかし、どういうわけだか2日後には完治しているのです。
ナメック成人じゃあるまいし、どれだけ回復力があるんだと
いう感じですが、私にはまだまだ知らないことが
たくさんあるんだなと学んだわけです。

　
　あんざいさんはどういうわけだかやたら保険の法律に詳しく、
「交通事故があったら私に連絡ください」
と親切に何度も教えてくれました。
携帯電話の写真を見ると、なぜか包帯を巻いた
患者さんがたくさん移っています。
ヤクザファッションのあんざいさんと、
患者さんのツーショット写真がたくさんあるのです。

　そんなあんざいさんですが、とても人懐っこく、
いつも小料理屋を笑いの渦に巻き込んでいました。
皆あんざいさんが来ると困るな〜
と噂話をしているのですが、
どこかであんざいさんが来るのを期待しているのです。

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11/20（土）
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