「無知の知」

無知の知




今日は午前中に院に論文を提出してきました。
去年の10月から調査を始め、結局昨日まで手直しを
していたので丸々1年ちょっと・・・長い長い研究でした。



 研究を通してたくさんの事を学びました。
特に「科学的」であるという概念について。



 「科学的」とは、突き詰めれば
原因 →結果 の法則を見つけることになります。



 物理的な世界であれば、
基本的には実験室を通して
この因果関係を解明していくわけですが、
心の世界について 原因→結果 を解明していくのは
物理的な世界とはまた違った立証の難しさがあります。




 例えば、


 コミュニケーション能力が高い人(原因)は友達が多い(結果)


 ということを立証するにはどうすれば良いでしょうか。
まずは「コミュニケーション能力」「友達」
という概念をはっきりさせなくてはなりません。
言葉というのは時代と共に意味が次々と変わって行きます。
それどころかその言葉の捉え方に個人差があります。



 例えば「犬」という言葉を見たとき
皆さんはどんなイメージを持つでしょうか。
私は実家にいた頃に飼っていたハスキーの故レナちゃんと
コーギーのハルちゃん(健在)をまずは思い浮かべます。



 しかし、犬を飼ったことが無い方は、
その辺で散歩されている犬を総合的に思い浮かべるかもしれません。
土佐に住んでいる人は土佐犬のイメージが強いかもしれません。
獣医さんは日常的に犬と接しているでしょうから、
私たちとはまた違ったイメージを持っているはずです。


 ですので心理学の研究ではまずは
言葉の定義をきちっとしなくてはなりません。



 そもそもコミュニケーション能力という概念は
極めて曖昧なものです。コミュニケーション能力とは何か
という哲学的な話をまずは心理研究ではしなくてはならないのです。
「友達」という概念も不明確です。
皆さんはどこからどこまでを友達だと思いますか?
職場の同僚は?昨日の食事会でであった女の子は?
ミクシーで繋がった顔を見たことがない人は?
どこからどこまでを「友達」とするのかについても
定義しなくてはなりません。





 次に、コミュニケーション能力の概念が決まったのは良いとしても、
じゃあコミュニケーション能力が高いとはどういうことか?
という話をしなくてはなりません。「高い」「低い」って
何をもって計ればいいんでしょう?という話になります。



 物理的な世界であれば、例えば「ものさし」があります。
このものさしは誰が見ても同じ長さです。
1センチは誰が見ても1センチですよね。



 ですが、コミュニケーション能力が高いとか、
低いとかを計る「ものさし」は人によって違います。
だから統一したものさしをいちいち作らなくてはならないのです。
このものさしを創るだけでも相当大変です。
きちんとつくろうとすると最低でも300人ぐらいに
調査をして、これを全部データに打ち込んで
統計的な分析をかけて、ああでもない、こうでもないと言いながら
作らなくてはならないのです。



 そして「ものさし」ができたらやっとコミュニケーション能力が
高いとか低いとかの調査ができるわけですが、
コミュニケーション能力が高い人(原因)は友達が多い(結果)
という因果関係を導くにはどうすればいいのでしょう。



 これはちょっとややこしいのですが、
統計的に因果関係を見つけるやり方があって、
まあとてもややこしいのですが、
とにかく統計学を使うのです。



 んで、この統計学というのが、
実は確実なものではないのです。
絶えず間違う確率が伴う。



 例えば統計では、
コミュニケーション能力が高い人は(原因)、
友達が多い(結果)


と確実に立証できるものではないのです。


 あくまで統計学
99%の確率でそういえますよ!
と回答してくれるのです。
まあ99%といわれれば、
まず間違いないです。


ただ99%の確率を出すのは結構大変なので
心理学的には95%以上の確率で
大体因果関係があると認めてくれます。



 っでここで大事なことは絶えず統計学は間違える
可能性があるわけです。もちろん99%であれば、
ほぼ間違いなくそうなると思います。
しかし、1%は間違うかもね。ということを
絶えず同時に主張しているわけです。


 そう考えると、
世の中にあふれる心の問題に対する考え方というのは
実は100%そう言いきれる物がほとんど存在しないことがわかります。
私は研究を通してそれをいつも感じていました。



 認知行動療法に「白黒思考」
というのがあります。「白黒思考」は
ゼロか100でしか物事を判断できない癖を持っている人の思考パターンです。
白黒思考が強い人はうつになりやすいと言われています。
心理の研究をすると、認知行動療法の白黒思考が
減っていく気がしました。



 世の中に絶対なんてものは少ないんですね。
それどころか、様々な主張は根拠が非常に不明確で
みんななんとなくそういっているんだなあと。
「知っている」と思っていることも、実はとても根拠が曖昧なんだと。



 ソクラテスは自分自身が無知であることを知っている人間は、
自分自身が無知であることを知らない人間より賢い。
と主張しています(無知の知)。
なんだかその言葉を研究を通して強く感じました。



 僕は結局何もわかっていなかったんだと。
根拠は最終的には脆弱なものであって、それでもその脆弱な根拠に基づいて
主張したり、発言をしていかなくてはらならないんだと。
その事を知ったことはむなしいとか悲しいとかではなく、
なんだか安心したというか、人間は最後は直感で判断している
動物なんだな、直感も大事なんだな、と言う
なんとも形容しがたい感情が芽生えるわけです。




 研究は本当に面白かったです。
研究ばかりで一時期仕事がダイコミュの仕事が全く
進まない時期がありましたが、
これから講師としてまた活動していく上で
厚みのある講義に役立てることができると思います。


 遊びもせずに研究室にこもって
頑張った自分にお疲れ様!
そして手伝ってくださった
生徒さんと関係会社の方たち、
院の先輩方に心から感謝です。



 
 




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