分業化とコミュニケーション


 現代の仕事環境はパーソナルスペースを大事にしている。
会社の職場の環境を見れば一目瞭然である。個々の机は
切り離され、人は人と対峙することなく、パソコンの画面と向き合い
一日を終えていく。


 すぐそばに人間はいるのだがその距離感たるや想像を絶するほど
大きなものがある。隣の机の人と2メートルしか離れていなくとも
精神的な距離感は壁となって厚く立ちはだかっている。


 分業化は個人個人が自分のスキルを高め、同じ事を繰り返すことで
生産性を挙げる作業である。アダムスミスはこの分業化による弊害として
相互間の関連性が失われると指摘した。


 分業化は、人と人との違いを助長する作業である。それぞれが自分の
知識の専門性を高めて行くことにより、「貴方はこれができるが、
貴方にはこれができない。」と言う人間の関係性を作り上げていく。


 現代の会社は、他者と違うことが生きるための条件なのだ。
他者と同じでは食い扶持にありつけない。だから現代に生きる私達は
他者と一層違うことを目指さざるを得ないのだ。


 しかしながら、会社において分業化を促進しすぎると、
人間関係の質が破壊され、情報の生成力が失われると
言うジレンマを抱えている。


 *ダニエルキムは成長の循環モデルにおいて、
良質な思考は良質な人間関係に立脚すると主張している。
 分業化を行うことは会社として必要なことだが、
同時に、人間関係の崩壊まで進めてしまうと
有機的な存在である人間の尊厳を破壊し、
思考力を奪い、そして、会社としての生命力を失う結果になる。


 人間はロボットではない、人間との関り無くして
幸せな人生など歩めるわけが無い。過度の分業化に
陥り、社員の思考が止まっていたら、要注意である。


 人間関係が良好かどうかは会社に入ればすぐ解る。
それが解らない経営者、管理者は失格である。




*ダニエルキム 
ペガサス・コミュニケーション社、
MIT(マサチューセッツ工科大学)組織学習センターの共同創始者